こんにちは。
3D歯科 です。
前回は最近導入した先生向けに臨床上抑えておきたいバイトスキャンについて
バイトスキャンに挑む前に押さえておきたいポイントについてお話ししました。
digitaldentistry.hatenablog.com
今回は、形成後の本印象スキャンの際に悩まされることの多い
出血などの水分が邪魔をしてスキャンが荒れてしまう問題について考えます。
よろしくお願いします。
Dry、Dry、Dry
この言葉はDr. Todd Ehrlichが強調していた項目です。
トッド・エールリッヒ先生は(お会いできたことはありませんが)個人的にPrimescanを
購入後に使いこなしで悩んでいた際に、オンラインセミナーやYouTubeセミナーで
レクチャーを聞き、今もスキャンで参考にしているCERECのスペシャリストです。
残念ながら3年ほど前に事故で亡くなってしまいましたが、デジタルのメンターの1人と
個人的に思っている素晴らしい先生です。
さて、Dry 、Dry、Dryとは、その言葉通りで
口腔内スキャンを行う際には十分すぎるくらいに乾燥させることが重要と言うことです。
支台歯周りはエアーをかけて乾燥はさせますが、対合スキャンや下顎臼歯再遠心では
エアーでの乾燥はなんとなく行う程度になってしまっていないでしょうか?
IOSでの画像取得の特性上、歯牙の上に水分があると
スキャン光は散乱し、また必要以上に透過して画像が荒れたりスキャンができなくなることもあります。
また、十分に乾燥をするとエナメル質は透明感を失い白濁します。
特に下顎前歯などではこのような水分を失った状態の方が、スキャンには好ましい環境に
なることも多いです(エナメルに透明感があるとスキャンエラーが出やすくなる)。
患者さんへの配慮は必要ですが、必ずスキャンの前には十分すぎるほどのエアー乾燥を
忘れず行いましょう。エアーの際にはアシスタントによるバキュームも必須です。
唾液が溢れるような方は、例えば下顎舌側はロールワッテを挿入して
ロールワッテごとミラーや指で圧排してスキャンを行うようにしましょう。
(もちろんラバーダムなども有効です)
生活歯で患者さんが痛みを訴えそうな場合には、スキャンのためだけですが
可能なら麻酔をさせていただきましょう。
例えばTEKを入れている症例で印象材ではなくスキャンなら、印象材の温度がないので
麻酔せずともシミなく印象がとれる、と思うかもしれませんが
やはり歯肉のコントロールと乾燥を考えると麻酔できた方が結果はいいと思います。
とにかくまずはDry、Dry、Dryです。
出血はアナログ印象以上にトラブル原因に
次に手強いのは出血のコントロールです。
いくら拡大視野で丁寧に形成を行っても、縁下カリエスがあったり
そもそも患者さんのプラークコントロールがイマイチだったりすると(TBIは必須ですが)
形成に伴い出血を起こし、スキャン前のエアーくらいでは対処できないことがあります。
この時にしっかりと出血のコントロールを行わなければ、スキャンデータは使い物にならなくなります。
例えば縁下形成と歯石除去を行い、抜歯も並行してTEKを入れた・・・と言うケースでの
当日の並行性確認用のスキャンデータはこのようになってしまいました。
まあ支台歯周りもエラーなく取れていて、問題ないのでは?と考えてしまった先生もいるかもしれませんが、
スキャンデータが怪しいかな、と思ったら一度カラー表示をオフにして詳細を見てみましょう。
例えば右上1の遠心口蓋側はマージンが途切れていますし、
そのほかもマージンラインがはっきりと視認できません。
(形成のせいだけではありません)
この写真はマルモ用途のため構わないのですが、このようなデータを最終印象として
技工士さんに送ってしまうと技工士さんには多大な迷惑と苦労をかけてしまいます。
アナログ印象でもマージンが不鮮明で出血まみれだと印象として不適格ですが、
そもそもデータが得られていないスキャン画像は、模型のトリミングなどで
技工士さんが対処できるようなものではありません。
出血と水分のコントロールは非常に重要になります。
出血コントロール・圧排
保険適用で導入したIOSをもっと使いこなそう〜①の歯肉圧排でも記載しましたが
歯肉や出血のコントロールで考えることは、レーザーなどで外科的に歯肉の除去や
止血を行うか、圧迫して歯肉圧排と止血を行いスキャンするかのどちらかです。
圧排については、よく行われるのはジンパックのようなコードを歯肉縁下に挿入する
物理的な歯肉の圧排です。
形成歯面に歯肉がのると出血がついたりスキャンの邪魔になるので歯肉はコードやラバーダムなどで圧排する必要があります。
個人的にはテフロンテープやテフロンフロスも圧排に多用します。
引き抜く際にも歯肉に負荷をかけないので、コードを引き抜くとまた出血した!
などのトラブルは回避できます。
もちろんケースによってはコードを入れたままマージンを明示できれば
コードを入れたままスキャンを行うこともあります。
コードには止血効果の薬液を含ませたものもありますがテフロンは止血効果がないので
適宜止血を補助する薬液を使用します。
基本的に持っておきたいのは、ビスコスタットクリアという止血剤です。
これをバットに出して短針などで出血点に滴下すると(純正チップ高いので使ってない)
水洗したら出血が止まっている、という優れものです。
ただし、こちらの薬剤にはレジンの硬化阻害の作用もあるとの論文があり
(これは先日参加したダイレクトボンディングのセミナーで教わりました、知らなかった!)
すぐにレジンセメントやCRなどを適用する場合であれば、ボスミンを5分ほど
適用する方が好ましいとのことでした。
不精者の歯肉圧排・出血コントロール
さて、先述の通りにビスコスタットクリアと圧排コードを使用するのが基本になりますが
圧排コード、麻酔をしていないときで歯肉が薄かったりすると、どうしても難しくないでしょうか?
チェアタイムが押していて、すぐにスキャンを終えないと・・・などという時、
スキャン対象がクラウンやTEKを作る歯冠形成後の状態であれば、簡単な方法があります。
コットンロール(ロールワッテ)を用いて、物理的に歯肉圧迫を行う方法をよく使用します。
方法としては、コットンロールの底をピンセットでぐりぐりと押し込み、
支台歯形成したおおよその形が適合する凹みを作成します。
それを支台歯に食い込ませるように圧入し、痛みのない範囲で対合と噛ませます。
これにより、1分後くらいには歯肉が支台歯歯根方向に圧迫されているので、
マージンが明示されやすくなりスキャンしやすくなります。
チェアサイドでいつも使用しているものだけで簡単に行うことができますので、
ぜひご活用ください。
まとめ
今回まで3週間に渡り、IOSを購入後に悩みやすい項目について
臨床上で活用できる考えや手法を共有しました。
アナログでもおそらく練習や手法の学習などを行ったはずですが、
デジタルのなってもやはり練習や技術、アイディアを取り入れることは重要です。
ですが、タネがわかってしまえば誰でも(器用不器用あまり関係なく)綺麗にスキャンできるのが
デジタル機器を用いるメリットだと思っています。
デジタルは、最小限の費用と時間の投資で最大限のメリットをもたらすべきものです。
IOSをせっかく導入したなら、慣れさえすればチェアタイムを減らし、患者満足度をあげ、
院内の仕事量を減らしてくれるメリットがありますので
ぜひあきらめず、飽きずに毎日触ってマスターしていただければと思います。
実際に口腔内スキャナーと患者さんを前にしないと伝わりにくいことも多いので、
9月中にCi主催で広島と大阪でのIOS使いこなしセミナーをさせていただく予定がありますが
その際にこのバイトスキャンも実例を見ながらポイントをお話しできればと思っています。
もしお時間がありましたらぜひよろしくお願いします。
今回の内容は以上になります。
長い文章でしたが最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
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